でも若い頃から注目はされてたんですよね。

学生の頃から割合評判はよかったね、展覧会出すと。
よくいろんな展覧会に出さないかといわれて、
逃がすまいと思ってたんだか、僕と船越と二人に
賞くれてたりなんかしてね。
澤田政廣さん、木彫のね、どうも目をつけてくださってた
みたいで、ご覧になってくださってて、「見にこない?」
なんて言ってくださってね。大きな屋敷でね。 そこに広い
座敷があって、その畳の上にデッサン 並べて、「どう?
批評してちょうだい」なんていうのよ、 もうびっくりしちゃった。
まあその頃からまずいもんじゃなかったんでしょうね。

でも「食えるまで」50歳かかったんですか
やはり、権威を跳ね除けてきたからなんですか?

いやその頃から何も偉かった訳じゃないけどね。
くれるってものはもらったし。
でも、芸術院会員とか 文化功労賞とか、
勲何等とかはね。
大体僕は人間を何等とかつけるの気に食わないの
下手な代議士よりも百姓のほうがよっぽど一等な
ひとがいるでしょ。キザなようだけど、職人が
あんなの身につけたってだめですよ。
だってみんな堕落していっちゃってるでしょ。
大体彫刻の芸術院会員は全部日展から出てて、
番付があるんだけど、上のほうに並んでる
のはみんな芸術院会員。
でもね、みんな僕よりだいぶ安いんですよ。
今の日本の美術界がどうなってるかということです。
見る人も同じで、上野の駅を降りるといつもは
動物園に行く人が7割、美術館は常に5つくらい
展覧会をやってるんですけど、普段はぱらぱらしか
いないんです。
それが日展になるとずらーっと人が並んでる。
日本人が、つくるほうも見るほうも、いかに
権威に対して弱いかということなんですよ。
これね、知らない人はやっぱり芸術院会員なんていうと
えらい人だと思って大臣級の扱いをうけますから。
スポーツだったらそうはいかないよね、
いくら金ばら撒いたって下手は下手ですから。

美術の大学の先生にしてみてもそうですよ。
日本の大学ってのは定年制で、空きが出てから
学生で真面目なやる気のあるのを入れるんですけど、
学生にしてみてもその頃は一生懸命なんですよ。
それが助手になって、助教授になって何てしていくうちに
だんだん中で出世したくなっちゃうんだろうね。
学部長になりたい学長になりたい何ていってね。
そういう人が大学でもものすごく多くて、
どんどん職人としてはだめになっていっちゃうのよね。
職人はね、「一日土をいじんなかったら一日の退歩」
と言って、そんなに学長だ何だやって、会議ばっかり
やってたら仕事はどんどんだめになっちゃいますからね。