ごめんね、いつもおんなじ話で。
ひとつしか経験してないから他の話は出来ないの。

いえ、先日のNHKも拝見させていただいたんですが、
やはり、テレビで観るのとは空気が違いますよね。

NHKみたの?あれ恥ずかしいんだよね。
あれ観ると、「佐藤忠良商売してやがんな」なんて
思われちゃうんだよね。だって胸像でしょ、胸像ってのは
金になるんですよ。
あの方はもう二科の親方でね、二科にも彫刻家は
いっぱいいるんだけれども「銅像つくるなら
佐藤忠良でなきゃだめだ」ってんで、
お引き受けする事になったんですよ。
それとこれ、「おおきなかぶ」ね。これ、宮城県の
小児科の病院でね、普通なら少年の像やなんかを
置くんだけど、なんだか「おおきなかぶは世界的に
有名な絵本だからあれをレリーフにしよう」なんて
僕の全然知らないところで話が決まっちゃって、
つくることになったんですよ。
でもこのレリーフっていうのは実は一番ぼろが出る。
作家の力がね。抽象だったらなんかこうやってこうやって
組み合わせてはいできましたでいいんだけど、
具象はぼろが出てくるもんで、だからあれ、
テレビの時からおじいさんの足もおばあさんの姿勢も
変わってるんですよ。
数ミリの厚みの中で距離感を出すわけでしょ。
他の人の作品の中には女の人を輪切りにして
貼り付けただけのようなひどいのもありますから。

やはり、日本の芸術界全体が、だめになって
きているんでしょうか?

だって芸術がなんだなんて言うと
これほどはっきりしないものはないでしょ。
爆発的なものが芸術だなんていうのもあるくらいだし。
でも本当の芸術とは、能のように内側に爆発力や
瞬発力をすっと溜めて、ほんの少しの動きの中に
喜びや悲しみ、怒りを込めてるものだと思うんですよ。
お能というのは我々の祖先が発明した、
偉大な芸術だと思いますよ。
僕はね、滝沢修さんていう役者、劇団民藝のね、
確か「石狩平野」という芝居を見たんだけど、
その中で、滝沢さんは静かに囲炉裏の前で座ってんの。
それが、ぱっと立った時にね、ふわーと
舞台全体の空間を抑えちゃったの。
まだ僕が27、8で、滝沢さんが37、8だったと
思うんだけど、僕はそれを観た時にね、
「僕はこんな彫刻をつくりたいな」
と思ったんですよ。
後になってそのことは民藝のカタログにも
書かせて頂いたんですけど、滝沢さんという人は、
本当にすごい役者でしたね、瞬発力が、ぐうーっと
抑えられていてね。